京都府立医科大学 外科学教室 心臓血管・小児心臓血管外科学部門
行っている手術

行っている手術

動脈管開存症

動脈管結紮術:基本的には側開胸で人工心肺を用いずに手術を行うことができます。体重500グラム台の未熟児に対しても手術を行った実績があります。動脈管が太い場合には結紮に加えてチタン製のクリップを動脈管に追加でかけて補強する場合があります。チタン製のクリップは磁気には影響されないので、術後MRI検査も問題なく受けていただくことができます。

心房中隔欠損症

心房中隔欠損孔閉鎖術:人工心肺を用い、心臓を止めて心房中隔欠損を直接縫合閉鎖します。大きい欠損孔の場合は自己心膜などの材料で補填して閉鎖します。また、通常行われる胸骨正中切開(胸の中央に手術創が残る)以外に、当院では右側方小切開(6~10cm程度)による心房中隔欠損閉鎖術を希望に応じて行っています。通常の胸骨正中切開に比べ、小さく目立たない手術創になります。

心室中隔欠損症

心室中隔欠損孔閉鎖術:人工心肺を用い、心臓を止めて手術を行います。心室中隔欠損孔の場所に応じて、右心房あるいは肺動脈を切開してそこから心臓の中を観察します。欠損孔の閉鎖にはePTFE(延伸ポリテトラフルオロエチレン)という人体に馴染みやすい素材で作られた人工の布をパッチとして用います。

房室中隔欠損症

①房室中隔欠損症根治術:心房中隔欠損と心室中隔欠損をそれぞれパッチで閉鎖し、さらに左右の房室弁の修復を行う解剖学的根治手術です。手術後の予後やQOLを高めるために、いかに弁逆流を制御するかが重要となります。

②肺動脈絞扼術:生まれてすぐでまだ体が小さい場合や、人工心肺を用いた手術に耐えるだけの体力がない場合に行う姑息的手術です。肺動脈をテープで締めて肺に流れる血流を減らすことで心不全や肺高血圧症を軽減し、成長を待ってから改めて人工心肺を用いた房室中隔欠損症根治手術を行います。

③右心バイパス術:左心室または右心室のどちらか1つの成長が不十分で、解剖学的根治手術(二心室修復術)が行えない場合に選択する機能的根治手術です。グレン手術、フォンタン手術と段階的に行います。

大動脈縮窄症、大動脈離断症

①大動脈縮窄解除術:単独の縮窄症の場合には左側開胸により狭い部分を切り取り、直接縫い合わせる方法で修復します(端々吻合法)。人工心肺を用いずに短時間下半身の血流を遮断して行います。

②心内修復術を伴う大動脈弓再建術:心室中隔欠損症などの心内奇形を合併した大動脈縮窄症または大動脈離断症の場合には人工心肺を用いて上半身と下半身を別々に還流する上下分離体外循環を用い、欠損孔の閉鎖および大動脈弓再建術を行います。

ファロー四徴症

①ファロー四徴症根治術:心室中隔欠損孔のパッチ閉鎖術(ePTFEパッチを用います)、および右室流出路再建術(異常筋束の切除、パッチによる拡大、肺動脈弁交連切開術)、さらに必要に応じて肺動脈拡大形成術からなる根治術を乳児期後期〜1歳前後で行います。肺動脈弁の成長が悪くそのまま利用できない場合には、1弁付きパッチを用いて拡大形成を行います。この「Bulging sinus及びePTFE弁付パッチ」は当教室で独自に開発し、良好な成績を全国の主要施設からご評価頂いております(「主な取り組みについて」のページもご覧ください)。

②ブラロック短絡術(Blalock−Taussigシャント術):肺動脈の発育が悪い場合やチアノーゼが強い場合に、肺血流量を増やす目的で行います。通常は腕頭動脈と肺動脈との間にePTFE製の人工血管を縫い付けます。人工心肺を使用して行うこともあります。

先天性大動脈弁狭窄症または閉鎖不全症

ロス手術:大動脈弁に自己肺動脈弁を採取して移植する手術です。人工弁を用いた大動脈弁置換術と異なり、肺動脈弁は成長可能な自己組織であるため、人工弁では避けられなかった成長に伴う再手術のリスクを軽減できること、抗凝固薬が不要のため妊娠出産やスポーツが可能などの利点があり、積極的に導入しています。(「主な取り組みについて」のページもご覧ください)

完全大血管転位症

①動脈スイッチ手術(ジャテーン手術):人工心肺を用い、心臓を止めて行います。大動脈と肺動脈を入れ替え、さらに冠動脈も移し替えます。心室中隔欠損を合併するⅡ型に対しては欠損孔のパッチ閉鎖も行います。冠動脈の移植に際しては当科で開発したBay-window法を積極的に適応することで術後の冠動脈合併症を減らすことが出来ています(「主な取り組みについて」のページもご覧ください)。

②Half-turned truncal switch手術:肺動脈弁狭窄症を伴う完全大血管転位症Ⅲ型にはジャテーン手術のような動脈スイッチ手術を行うことができず、ラステリ手術という人工血管を用いた手術を選択することになります。この手術では身体の成長に合わせて成長しない人工血管を使用するだけでなく、左心室から身体への血流の通り道が曲がりくねってしまう問題点があります。そこで当教室では大動脈と肺動脈の根本を弁ごと入れ替えることでこれらの問題点を克服するHalf-turned truncal switch手術を開発し、良好な成績が得られています。(「主な取り組みについて」のページもご覧ください)

左心低形成症候群

①両側肺動脈絞扼術:全身の臓器が未熟で体力も十分でない新生児期に人工心肺を用いた大きな手術を回避するための姑息的手術として行います。左右の肺動脈にテープをかけて締め付け、肺血流を調整することで心不全や肺高血圧症を軽減し、体への血流を増加させます。

②Norwood(ノーウッド)手術:低形成の左心室に代わって右心室で全身の循環を維持していくための準備手術です。肺動脈を用いて細い大動脈弓を太く作り直し、さらに肺への血流はブラロック短絡または右室-肺動脈導管によって確保します。人工心肺を使用し、心臓を止めて手術を行います。様々な先天性心疾患に対する手術の中でも特に身体への負担が大きく、また難易度の高い手術になります。このノーウッド手術の際には当教室で開発したchimney(チムニー)法という手技を用いることで、人工の補填物を用いることなく大動脈と肺動脈の組織のみで新大動脈を再建することが可能となっています。

③グレン手術、フォンタン手術:ノーウッド手術後にグレン手術、フォンタン手術と段階的に手術を行い、右心室のみで全身の循環を維持する「フォンタン循環」を完成させます。「単心室症」の項目もご覧ください。

単心室症(無脾症候群、多脾症候群など)

①両方向性グレン手術:三尖弁閉鎖症や左心低形成症候群、単心室症、そのほか左右の心室のいずれかの発達が悪い疾患に対して行います。2つの心室が肺循環と体循環のそれぞれを担うことができない場合、1つの心室に体循環を担当させ、体から戻ってきた静脈血は心臓を経由せず肺動脈に直接流入させます(右心バイパス)。これは段階的に行うのが一般的で、まず上大静脈を右心房から切り離し、右肺動脈に縫い付ける両方向性グレン手術を行います。

②フォンタン手術:グレン手術に引き続いて2歳前後で下大静脈の血液を肺動脈に導くフォンタン手術を行います。人工血管を用いて心房の外を通す方法(心外導管法)を第一選択としています。良いフォンタン循環を作るためには低い肺血管抵抗を有するよく発達した肺動脈、弁逆流のない良好な機能の心室が必要となります。

総肺静脈還流異常症

①総肺静脈還流異常症修復術:通常、肺静脈は左右2本ずつ合計4本あり、左心房に還流しています。この疾患は肺静脈が左心房に還らず、右心房や上大静脈、ないし下大静脈に還流する疾患です。多くの場合新生児、乳児期早期よりチアノ-ゼ、心不全を来します。肺静脈が異常還流する部位に狭窄がある場合はより重症で、早期の外科治療が必要となります。手術は人工心肺を使用して心臓を止めて行います。肺静脈が合流している共通肺静脈腔という空間と左心房をつなぎあわせて肺静脈が通常通り左心房に還流するようにします。

心室中隔欠損症、肺動脈閉鎖症、主要大動脈肺動脈側副血行路(MAPCA)

①中心肺動脈再建術、肺動脈統合化手術(UF; unifocalization)、姑息的右室流出路再建術:肺動脈が存在せず(肺動脈閉鎖症)、心室中隔に欠損がある心疾患です。肺動脈がない代わりにMAPCAによって肺血流が大動脈から供給されています。1歳前後を目安としてMAPCAを全て左右1本ずつにまとめるUFを行います。UFを行ったMAPCAは自己心膜によって再建した中心肺動脈につなぎあわせて肺動脈が再建されることになります。この時点では肺動脈がしっかり育っている保証がないため、心室中隔欠損孔は閉鎖せず、細めの人工血管を右心室から肺動脈までつなぎます。

②ラステリ手術:十分に肺動脈が成長したことを確認した後、2歳前後を目安として心室中隔欠損孔のパッチ閉鎖(上記参照)と右室肺動脈導管のサイズアップを行います。心室中隔欠損孔が閉鎖されたため、チアノーゼは消失します。

その他にも、総動脈管症や両大血管右室起始症など、様々な先天性心疾患に対して治療を行っています。